チリギン45の攻防続く

久しぶりの片付けのために部屋中をひっくり返していいて、きのうは更新できなかったのですが、その片付けの副産物として、高校2年の修学旅行で小樽の日刊北海経済新聞社*1に行った際のことを書いた文章を見つけ出しました。
他にネタもないので全文引用します。
高校生の時に書いただけに、今よりちょっと若い感じはするけど、しかし文章の組み立て方は昔から殆ど変わってないんだなあ。



チリギン45の攻防続く


皆は「世界」のすべてを知っていて、自分だけが何も知らないのではないか?
そんな被害妄想じみた疎外感によくとらわれる。もちろん、「世界」の全てを知っている、なんてあり得ないとわかってはいるのだが、それでも勝手に感じてしまうものだから仕方がない。あたかも、「世界」という正体のわからぬもやもやしたものが、頭の上から覆いかぶさってきているような、そんな気分なのである。
どうも、見えている世界が狭すぎるようだ。
自分に見えているのが「世界」のすべてだと思っているものだから、「みんなすべてを知っている」などという妄想を抱くのだ。考えてみれば、「世界」を「もやもやしたもの」と表現している時点で、それについてよく知らないと告白しているようなものではないか。本当は知らないくせに、自分に見えているのがすべてだと思って、くよくよしている。
この「もやもやした世界」をなんとかしなければならぬ。
というわけで、やっと本題に入るのだが…業界新聞というものをご存じだろうか?
ふつう、新聞というものは、もやもやした世界をもやもやとうつしだすものにすぎないのであるが、この業界新聞は、世界のごくごく一部分をくっきりはっきりとうつしだす。それでいて、いや、だからこそ、業界新聞は関係者以外には意味不明である。
ビル新聞、塗料報知、紙業日日新聞、トーヨー新報(とうふ業界紙)、日本屋根経済新聞、ゴムタイムス、時計美術寶飾新聞、センイ・ジヤァナル、エアゾール&スプレー産業新聞、新聞改造(新聞業界紙)、日本冷房冷凍新聞、プロパン・ブタンニュース…こうして業界新聞の名を挙げていくだけで、さっきまでもやもやしていた「世界」が、急にたくさんの「業界」の集合体として、はっきりした輪郭をもってくる。自分に見えているのは“学生業界”のさらにごくごく一部にすぎないのでは、と考え直し、そして、「世界」というのは思いのほか広いものだと気づいて、「すべてを知っている」云々がアホらしくなる。
そんな業界新聞が、北海道・小樽にもあると聞いたら、黙ってはいられない。その新聞とは、水産専門紙『日刊北海経済』だ。
日刊北海経済新聞社のホームページを見た私は、これは必ずや修学旅行で手に入れねばならぬ、と思った。月に2回ほど発行するという特集号の紹介によると、2000年の10月に出した1つ目が「カズノコ特集」で、2つ目が「味付カズノコ特集」だというのだからただごとではない。味付の方の紙面に「新時代を切り開く贈り物」の見出しが躍っているのも見える。切り開いてしまうのだ、カズノコが。
こんなわけで、修学旅行2日目・9月28日の小樽自主研修において、私のわがままを通してもらい、我々の班は日刊北海経済新聞社にむかったのだった。
いきなり押しかけるのも迷惑かつ失礼であろう。そこで、まず電話をかけてみた。本社まで行けば新聞をわけてもらえることが確認できたので話を切り上げようとすると、相手がこう言ってきた…「うちは水産関係ですよ?」…こっちとしては、わかりきったことなのであるが、この発言の意図はなんなのだろう。なんとなく、我々と水産業界の間にたちはだかる高い壁のようなものを感じる。
そんなこんなで、不安と期待の入り混じった中、日刊北海経済新聞社へと移動しはじめた。自然と歩くペースも上がる。もっとも、他の班員は逆に下がっているようにも思えたが、気のせいであろう。かくて、到着と相成った。
結論から言うと、この水産専門新聞社は、我々を暖かく迎えてくれた。実際に中に入ったのは4人なのだが、その1人に1部ずつ当日付『日刊北海経済』をもらったほか、旧安田銀行のものだという社屋についても話してくれたのである。
さて、ではいよいよ紙面について。
まず1面トップの見出しは、「秋サケ魚体の小型化で16万トンどまりか 年間目回りが3.24キロ? ここ数年では最小と―道立ふ化場」である。これだけで、この『日刊北海経済』が、凡百の新聞とは一線を画していることをおわかりいただけると思う。さらに、この記事は「早く帰ってこいよ!と叫びたくなる日々が続いている。」という文章で終わる。ふつうの真面目な新聞では、少なくとも1面トップ記事にこんな表現はない。新聞としては規格外の、こういう文章を見るとうれしくなる。なんとなれば、「世界」の広さを感じるからであろう。
この1面トップ記事の下に、「本日の2面 チリギン45の攻防続く 東京市場の鮮冷サケ・マス動向ほか」とある。チリギン45?…なんだかわからないが、攻防が続いているらしい。早速、2面を見ようではないか。なお、言い忘れていたが、この新聞には2面までしかない。よって、新聞紙一枚、これが9月28日付『日刊北海経済』のすべてである。
というわけで、2面トップ。少々長いが、本文をすべて引用させてもらおう。

チリギン45の攻防続く 北欧トラウト高値を容認?
(9月25日)色物原料の荷動きの中心となっているのは引き続きチリギンだが、切身向け主体の4〜6ポンドで450円を巡る攻防となっている。色物の品薄感が先行して、パタパタと値段を上げたチリギンだが、製品価格が上昇しての原料値上がりではないので、中間・加工業者段階の仮需が一段落したのか再び横ばい状態へと落ち着きを取り戻しつつあるようだ。現状では買いに入れば450円を言われるし、それでは黙っていて450円が通るかというえばそうでもなく、強いて中心価格といえば440どころといえそうだ。一方で北米ベニは、ブリストル物は550円以下で売って出るメーカーが消えてしまい、手持ち筋は長期戦の構えだ。ローカルの予想外の伸び悩み、ロシアの水面下の動きでフリー玉が少なく、すでに実需筋に押し込まれたものも多いとみられるので、来季までゆっくりと売手市場で凌いでいこうというのが実情のようだ。トラウトはチリ産のジリ高に加えてノルウェーの現状も高値に張りついたままで、現状買付ければコストで550円にまで上昇してしまいそうなレベルとされ、いずれコストに見合った水準まで上昇するだろうと目されている。<東京支局>

…毎日、こういった記事に目を通している人がいると思うと、実に愉快である。この文章、私にはてんで理解できない。まったくもって、「世界」は広いというほかない。だいいち、チリギンというものの正体がわからない。サケ・マスの類なんであろう、というだけだ。45は450円のことだろうが、値段ってのは「パタパタと」上がるもんなのだろうか。
「450円が通るかというえば」というのは、さすがに誤植であろう。これが業界用語であったら、いくらなんでも驚きだ。しかし、「一方で北米ベニは、」以下の文章を見るとその確信も100%ではなくなる。なにしろ、ブリストル物、手持ち筋は長期戦、ローカルの伸び悩み、ロシアの水面下の動き、フリー玉が少ない、実需筋に押し込まれる…などなど、業界用語の嵐が上陸中で、さっぱり訳がわからない。はっきり言って、意味不明である。これはことによると、「いうえば」も業界用語なのかもしれぬ。
ちなみに、最後に「東京支局」とあるが、その所在地は埼玉県春日部市新方袋1300−53なので注意。
こうした情報は、我々にとって何の価値もない。いや、まあ、まず理解ができないのであるが…。ともかく、無価値である。だが、その一方で、こうした情報に生活がかかっている人が、少なからず存在するのだ。「世界」の広さに驚嘆するしかない。
1面の片隅に、こんな記事が載っていた。

東水の三橋氏が退職
【東京支局】東都水産(株)冷凍塩干部副部長三橋正敏氏が9月末をもって退社する。同氏は東水に入社後、33年と6ヶ月間余りを塩干畑。なかでも塩カズノコを主力に手掛け、全盛期の時代からその後の混乱。今日までカズノコの浮き沈みを経験。その生き残り組の一人。退職後は自宅で余生を過ごすという。

この人の頭の中には、様々なカズノコの知識が詰め込まれているに違いない。そして、私はきっと、その百分の一だって知ることはないだろう。
「世界のすべてを知っている」なんて、まさしく妄想以外の何物でもないことはもちろんである。いや、そればかりか、「世界」について、我々はほとんど何も知ることができないのではなかろうか。「業界」ごとに、それぞれたくさんの三橋さんがいるはずなのだ。その人達の知を、我々はほとんど吸収しないままなのである。
…そうそう、水産業界というのは食文化を支えている、と。で、これは食文化を支える水産業界と、その専門紙のはなしだ、と。これで食文化とつながったか?
そんなわけでした。



最後は、修学旅行のテーマが“北海道の食文化”とかだったことから、こんな風に書いた覚えがあります。
しかし、考えてみるとあんまり「修学」できそうもないテーマだったんだなあ。

*1:残念ながら、すでに廃業してしまっているらしい。