妖精さんたちの、そうごかけきん

相互掛金通帳


いきなりですが、皆さんは「相互掛金」を知っていますか。


昭和26年から平成4年まで存在した相互銀行という金融機関に固有の商品であった相互掛金ですが、現在ではどこも取り扱っていないようで、Wikipediaにおいて項目がいまだ作成されていない(2012年クリスマス・イヴ現在)という絶望的な状況です。
そもそも相互銀行とは、そのほとんどが無尽会社から転換したものであり、また現在あるほとんどの第二地方銀行は、この相互銀行から転換したものです。*1
地方金融機関萌えの僕としては、第二地方銀行の前身がどんな存在だったかをきちんと理解しておきたいのですが、ネットで調べることのできる相互銀行の情報はこれほどかように少ないので、非常に困っておりました。
まあ、もう実際にはなくなっちゃった金融上の制度なんて、みんなどうでもいいから仕方ないんでしょうけど…。


このまま引き下がるわけにはいかないので、文学部を本拠地とする僕が経済学図書館までわざわざ出かけていって、相互銀行に関する本を数冊借り、それで研究してみることにしました。すでに失われて、みんながどうでもいいと思っていることほど燃える性格でしてね。
その結果…うーん、やっぱりわからん。


さっき、相互銀行無尽会社から転換したということを書いておきましたが、相互銀行固有の商品である相互掛金も、無尽会社の商品である「無尽」をもとにしたものでした。
そこで、まずその無尽というのをすごくテキトーに説明してみましょう。
10人1組になって、全員が1万円ずつ出し合います。
すると10万円集まるので、10人で抽選をして、当たった1人がその10万円を取ります。
次の月に、また全員が1万円ずつ出し合います。
前回当たった1人をのぞく9人で抽選をし、当たった1人が10万円を取ります。
…以下同様、って感じです。
最初に抽選に当たって10万円もらえた人は、事実上9万円を借りているのと同じであることがお分かりになるでしょうか?


相互掛金になると、10人1組とか、抽選とかいうのはなくなります。*2
ある人が、10ヶ月のあいだ1万円ずつの「掛金」相互銀行に払い込む契約をする。
もしただ払い込み続けただけなら、契約の満期になって10万円+利子の「給付金」相互銀行から得られる。相互銀行の支払う給付金額>契約者の払い込む掛金の総額)
しかし、(あらかじめ定めた回数だけ掛金を払い込んだ後なら)契約期間中途でいつでも給付金をもらうこともできる。この場合、給付後に払い込む掛金は給付前より高くなり、相互銀行の支払う給付金額<契約者の払い込む掛金の総額となる。
…こんなところです。
ポイントは、もし満期まで掛金を払い込むだけなら貯蓄になり、*3中途で給付金を受け取るなら(事実上の)借入になるということです。
そして、この後者の利用法により相互掛金は、金融機関からの通常の融資を受けにくい中小企業の資金調達手段となった、らしいのです。


うーん、でも…。
10人1組とかの「講」を組む方式の無尽なら、信用リスクはその講の成員が負えるでしょう。でも相互掛金だと、普通に相互銀行が信用リスクをかぶってしまうんじゃないかと思うんですよ。
つまり、給付金を受け取った後で掛金を払い込めなくなってしまった契約者がいた場合、この契約は事実上の不良債権となってしまう。
これじゃ、別に普通の貸付となんら変わるところがないし、信用力が低くて融資対象にならない中小企業をも相互掛金契約はその対象にできたという話の理論的な裏付けが不明なんです。


ちょっと僕だけじゃ埒があかないので、それぞれ金融と法律の実務に携わっている友人2名に相談してみました。
そして、その結論は…やっぱよくわからん!
とにかく戦後のある時期まで中小企業には(その信用力の多寡に関わりなく)金が回りにくい状況があり、それで相互掛金という商品が必要とされる余地があったんでしょうね、という程度の考察にしかならないのでした。
このまま誰もちゃんと研究してくれなければ、相互掛金は歴史の闇から闇に葬られてしまうんやろなあ…と僕が悲しんでいると、友人のうちの1人が言ってくれました。
「このまま日本が順調に衰退していけば、そのうちまた相互掛金が必要になる日がくるかもしれないよ」
…それだ!!


というわけで、『日本は衰退しました』のepisode.01は妖精さんたちの、そうごかけきん」で決まり!


(画像の出典は社団法人全国相互銀行協会・編『相互銀行史』1971/社団法人全国相互銀行協会

*1:たとえば北洋銀行第二地方銀行)は北洋相互銀行相互銀行)から、その北洋相互銀行は北洋無尽(無尽会社)から転換しています。

*2:正確には、こういう方式はもともと「看做無尽」という無尽の一種として扱われており、それが相互掛金になったようです。

*3:この場合、結果は「定期積金」と同じです。