2012まとめ

思い出してみると今年はオウム指名手配被疑者出頭の速報から始まったのでして、結局上半期のうちに残っていた3名全員が逮捕されたわけですが、そんなこともあって僕は井上順孝・責任編集、宗教情報リサーチセンター・編『情報時代のオウム真理教』(春秋社/2011)を読みました。
オウム探求に誠実に取り組むいたってマジメな本なのですが、その中にも以下のような記述が出てこざるを得ないところに、オウム問題というものの性格の一端が現れているように思えます。

二〇一一年四月一五日時点で、YouTubeで「オウム真理教」を検索すると、八七五件、また「アレフ」で一一〇件、「ひかりの輪」で二〇二件、それぞれヒットする。オウム真理教でヒットしたもののうち、もっとも再生回数が多いのは、「オウム真理教 尊師ソングメドレー 笑ったらポア」というタイトルで、百万回を超える。


(429ページ)

…笑ったらポア(デデーン)

情報時代のオウム真理教

情報時代のオウム真理教


さて、そんな今年はtvk開局40周年イヤーでして、40時間連続生放送特番などという無茶な企画もやっていました。
僕は海老名でのイベント(http://d.hatena.ne.jp/nise-jukensei/20120505)や、放送ライブラリーでやっていた特別展を見に行ったくらいでしたが。
とりあえず、独立U13局全社訪問を達成できたのでよしとしましょう(http://d.hatena.ne.jp/nise-jukensei/20120421)。


ラジオ関連では、レコメン!からK太郎さんが卒業し、その夜は僕も浜松町にいました(http://d.hatena.ne.jp/nise-jukensei/20120329)。新聞関連では、所沢の『日刊新民報』が廃刊するということで、入手しに行ったり(http://d.hatena.ne.jp/nise-jukensei/20120324)、あと海外の新聞を初めて買ったりもしました(http://d.hatena.ne.jp/nise-jukensei/20120920)。


競馬障害競走では、中山グランドジャンプhttp://d.hatena.ne.jp/nise-jukensei/20120414)および中山大障害という2つのJ・GIを初めて現地観戦したり、あと改装後1回目の中京障害オープンで初めて馬券が当たったりしました。このレースを勝ったシゲルジュウヤクは、僕がイギリスに行っている間に一気に重賞まで獲ってしまいましたね。
ヒシカツヒトリタビ、ディアマジェスティ、クランエンブレムホクトスルタンほか、競走中の事故で死亡した馬たちに今年も哀悼の意を。


さて、書く書くと予告しておきながら書かなかった漫画2作の感想を書かなければなりません。


丸美甘『生徒会のヲタのしみ。』5巻(完結)(スクウェア・エニックス<ガンガンコミックスONLINE>/2012)

以前はヒール役として登場することの多かった生徒会が、最近では主人公側の日常の拠り所として登場しがちであることを、若者の保守化の反映として見る人がいるようですが、そもそも若者なんて実は昔からすごく保守的なもんじゃないでしょうか。少なくとも個人的には、変化を嫌う気持ちは昔の方が大きかったなあと思います。生きてきた時間の短さに比例して、変化にさらされた経験もまだ少なかったという事情がありまして。
生徒会が敵となるのも、主人公たちが自然に形作った共同体に外部の論理を振りかざして介入しようとするからであって、つまりここにも保守的な心性が現れているような気がします。これと同様のことはたぶん、60年安保とか三里塚とかをどう評価するかとかいう問題に関わってくるんですが、まあきょうはそれはいいや。
さて、変化を忌避するという意味での保守性と恋愛というやつとはあまり相性がよろしくなさそうなのですが、この『生徒会のヲタのしみ。』は最初からラブコメ的構造を抱えてスタートしていて、だからどうこれが処理されるかというのが大きな問題だったと思われます。おまけページに連載の裏話的なものが色々書いてあるのですが、それによれば作者はだいぶ初めのうちからラブコメ展開を進めようとしていて、それを担当編集者が止めたこともあったみたいです(32ページ)。
最終的には、なんとなくラブコメとしてのオチをつけて連載は終わったわけですが、これもおまけページにおける作者のコメントによれば「(主人公がヒロインの)会長さんとつきあうことはないと思っています。高校在学中は。」(14ページ)とのことで、僕はそれでいい、それでいいんだ、と頷いたのでした。


春夏秋冬鈴『レディーズメイド』2巻(完結)(少年画報社<TSコミックス>/2012)

レディーズメイド 2 (TSコミックス)

レディーズメイド 2 (TSコミックス)

これも連載の最終回を見たときには、やけに保守的な結論に落ち着いたなあと思いました。主人公の女装メイドとお嬢様の関係を中心にして、周りもみんな倒錯しまくってるというお話の割に、最後はヒロインと結ばれた主人公が男に戻って終わり、ですからね。
でも単行本に書き下ろされた読み切りを見ると、事はそう単純じゃなかったと思い知らされます。ヒロインの両親も(娘たちと同様に)お嬢様と女装メイドの関係だったことは連載分で語られているのですが、この結婚ではなかなか世の中渡っていくのは難しく、そこでヒロインの母は別の男と結婚して経済的なやり繰りをしているということが、単行本書き下ろし部分で初めて描かれているのです。
つまりヒロインの母は、ロマンティック・ラブ・イデオロギーに基づく恋愛結婚と、家の経営を担うための伝統的な結婚とをごく自然に併用していたというわけで、うーんやっぱり一筋縄ではいかない作品だなあと、改めて感じさせられました。


終わった漫画の話だけするのもどうかと思うので、これからの作品も。週刊少年チャンピオン』(秋田書店で、ケルベロスフクイタクミさんが『ハーベストマーチ』を連載し始めましたが、単行本がまだ出ていないので、ここは『ほしのこ!』matobaさんの新作『魔女の心臓』をご紹介。


前作については牧歌を引き合いに出して感想を書いた覚えがありますが(http://d.hatena.ne.jp/nise-jukensei/20110728)、本作は牧歌を書き終わったウェルギリウスが農耕詩をとばして、いきなりアエネイスを書き始めてしまったような…とまで言うとむしろ褒め殺しになってしまうかもしれませんが、とにかくエニックス系の伝統ド真ん中なヨーロッパ風ファンタジーです。
主人公の魔女は不死なのですが、死すべき人間と不死なる神々という鋭い対比が古代ギリシア・ローマ文学において前提となっていることを考えれば、ヨーロッパ風の世界観を採用するのはとても合理的なことだと思います。たぶん日本風だとちょっとテーマと合わないんじゃないかな、と。
既刊は1巻(スクウェア・エニックス<ガンガンコミックスONLINE>/2012)だけなので、今からでも見とけよ見とけよ〜。

魔女の心臓(1) (ガンガンコミックスONLINE)

魔女の心臓(1) (ガンガンコミックスONLINE)


さて、オウムで始まった2012年は、師走の衆院総選挙で終わったと言えましょう。
結果的に12政党6政治団体が候補者を乱立させた今回の選挙ですが、直後に起こった未来分裂騒動まで含め、政党政派の離合集散が好きな僕にとっては非常に刺激的な日々が続きました。
お家騒動のたぐいでいえば、今年は出版社のコアマガジンでもそれが起こってしまいました。編集者と作家がまとまってライバル社のワニマガジンへ流出したのです。
まあ僕は『漫画ばんがいち』派でして、今回の件で直接影響を受けたのは『コミックメガストア』、『コミックホットミルク』側(以下MS/HM系と表記)なので、あまり関係ないかなあというところもあったんですが、『ばんがいち』と同系統で『漫画ブリッコ』や(旧)『漫画ホットミルク』の直系後継誌である『コミックメガミルク』が休刊になったり、なかなかそうも言えないような状況。
混乱の中で『ばんがいち』の誌風に全然合わない作家がやってきたりしまして、某掲示板では「山文京伝の放出が最大の補強」、「山文とMS/HM系の久川ちんをトレードしよう(提案)」みたいな風潮がうまれたりしていたのですが、久川ちん先生も普通にワニマガジンへの流出組で、12月に単行本が出ることが判明して「ほげええええ」となったのでありました。


で、悔しいことにその単行本がいいんだ、また。

久川ちん『発恋期』(ワニマガジン/2013)
恋愛とセックスとがもっとも幸せに結婚している作品集の最後に、幼なじみどうしがすれ違うシーンを置く構成はなんとも心憎い。その直前では、あまりにもエロマンガ的な女教師のセリフが現実に敗北している(しかも、そのことを聞いている男教師と読者は知っているが、言っている本人は気づいていない)のも素晴らしいです。気持ちよく夢から醒めるようにして、この単行本は終わります。

発恋期 (WANI MAGAZINE COMICS SPECIAL)

発恋期 (WANI MAGAZINE COMICS SPECIAL)


ところで僕は完全に夢追い人と化して、現実へと繋がる重い扉がギギギと閉まる音が聞こえるのですが、それは大丈夫なんですかね…?
来年も将来は見えないでしょうが、なんとか頑張ろうと思います。